伊勢から熊野へ
全ての人々を受け入れるよみがえりの聖地、熊野。
千年以上前、紀伊半島の険しい山々と豊かな自然の数々に神や仏の存在を感じながら巡礼道を歩き、「生まれ変わって現世へ戻る」という信仰が生まれました。
かつて皇族や貴族などは憧れを抱いて熊野三山に詣でましたが、江戸時代には人々にとって心のふるさとである伊勢神宮から熊野三山を目指す巡礼が広がりました。
誰もが訪れたいと願うその祈りの道が熊野古道伊勢路です。
そして多くの巡礼者は名もなき庶民。時には古道沿いの地元の人々に助けられ、海の青さに癒されながらいくつもの石畳の峠を越えて熊野三山を目指しました。
熊野古道伊勢路は厳しくもあり、人の優しさに満ちた古の道。
今に生きる私たちも歩き続けるうちに心が満たされて新しい自分に出会えるかもしれません。

熊野古道
伊勢神宮と本宮・速玉・那智の熊野三山を結ぶ紀伊半島東海岸にある約170kmの巡礼道です。古代から中世にかけ、熊野三山の信仰が高まり、上皇・女院や庶民にいたるまで、旅人の切れ目がなく行列ができた様子から「蟻の熊野詣」と例えられるほど多くの人々が熊野に参詣しました。
熊野古道は伊勢路の他にも、京都から大阪・和歌山を経て田辺に至る「紀伊路」、田辺から山中に分け入り本宮を経て速玉・那智へ向かう「中辺路(なかへち)」、田辺から海岸線沿いに那智へ向かう「大辺路(おおへち)」、高野山から熊野へ向かう「小辺路(こへち)」、吉野・大峯と本宮をつなぐ山伏たちが通った厳しい修行の道「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」などがあります。
伊勢神宮と熊野三山
伊勢神宮
- 神宮
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正式名称は「神宮」であり、日本で最も格式高い神社。主祭神は皇室の祖先とされる天照大御神(あまてらすおおみかみ)。日本の総氏神としてあがめられています。
熊野三山
- 熊野本宮大社
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伊勢から長い道のりを歩く熊野詣。厳しい伊勢路、本宮道を経て、最初にたどり着く聖地が熊野本宮大社です。かつては、熊野川・音無川・岩田川の合流点にある「大斎原(おおゆのはら)」と呼ばれる中洲にありましたが、明治22(1889)年の洪水で多くが流出し、現社地に流出を免れた社が遷座されました。
- 熊野速玉大社
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伊勢路の浜街道を南下すると、最初にたどり着く御社が熊野速玉大社です。熊野本宮大社から熊野川を約40km下った河口付近に位置し、鮮やかな朱色社殿が特徴です。近くには「ゴトビキ岩」をご神体として祀る神倉神社があります。
- 熊野那智大社・那智山青岸渡寺
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熊野那智大社は那智山の中腹に鎮座し、落差日本一の那智の滝への自然崇拝が起源とされています。隣には西国三十三所巡礼第一番札所の那智山青岸渡寺(なちさんせいがんとじ)があり、伊勢路巡礼のあと、多くの人が引き続き西国巡礼の旅に出かけました。
明治時代の神仏分離令を免れたため、人々が神も仏も信仰していた神仏習合を感じられる貴重な場所です。